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 頬を撫でる風は生暖かく、けれど微かに冷たさが混じるのは緑の葉が紅色を見せ始めたせいだろう。
「あっお久しぶりですね妹紅さん。私白玉三つで。そろそろあそこに建てませんか?」
 冷えてはいないが、冷え始めるかもしれない身体をお茶で暖めながら甘味を口にしている少女、藤原・妹紅に声を書けてくる少女は紅葉の色へ反逆するような緑の髪をしている。
「あ? 嫌よ。最近は死んだアイツの代わりに巫女の服とか作るので忙しいし、巫女に文句言われるのも面倒くさいのよ」
 いや少女というのは間違いだろうか。何故なら彼女は人ではなく、すでに神なのだ。
 名前は東風谷・早苗。かつて人であり、外からやってきた少女。外からという点では妹紅もある意味ではそうなのだろう。
「残念至極ですね。しかしあの人も道具作りの弟子をもっと取れば良かったのになぁ。商売苦手で口ばかり回るような弟子とか」
 当たり前のように妹紅の前に座り、これまた当たり前のように三つの甘味を注文する早苗に呆れながら妹紅は羊羹をゆっくりと切って口に含む。
 流石人気のある茶屋と言った所か妹紅の顔は見る人が見れば緩やかに口が三日月の形をしている事がわかる。
「まっ、一人二人居るらしいよ。アイツ以上に偏屈だからどっかに引きこもってるとか」
 すでに居ない長く友人であった男を思い浮かべながら羊羹を飲み込み、一息を付いてお茶を静かに飲み込む。姿にどこか気品があるのは育ち故だろうか。
「あの人の弟子らしいですねー。全く、たかれる相手をもっと沢山作って欲しかったですよ」
「アンタは強盗か何かか」
「神様ですが何か?」
 煙草に火を点けてそのまま煙を一気に吸い早苗に向けて吐き出す。吐き出された早苗は慌てて煙を手で散らすが少し咽た。
 ついでに涙目となっている。
「やめてくださいよ! 眼が! 眼がぁ!」
「アンタが悪い」
 もう一度煙を吸えば早苗が身構えるのを見て、それに苦笑しながら今度は煙を上へと吐き出す。
 その姿がやけに様になっているのは慣れかその容姿ゆえにだろうか。
「人から神になってもアンタあんまり変わらないよねぇ。妙に若いし」
「ふふふ。神様になると若いままですよ! 妹紅さんもどうですか?」
「今のままでも十分だっての」
 注文した白玉三つがテーブルの上に置かれそれを満面の笑みで食べだす早苗に呆れ顔を見せて妹紅もまた羊羹を食べ始める。
 煙草と羊羹が合うのかどうかはおそらく合わないのだろうが、それでも多分良いのだろう。
「んで神様の生活って大変なの?」
「そりゃもう!」
 大声で肯定の返事を返した早苗に妹紅は片方の耳を塞ぎ、里の人々はなれたように耳から両手を離してまた甘味を味わい始めた。
「毎日毎日修行修行、修行が終われば巫女の教育! 更に次代の巫女になれそうな子を探したり大変なものですよ」
 内容だけを聞けば大変そう、いや実際に大変なのだろうが口調は弾んでおり、綻んでいる口は甘味のせいだけではないだろう。
 表情には疲れが見えるが張りがあり、それは充実している事を感じさせる。
 そう悪くない人生を、いや神生を歩んでいるんだなと思いながらなんとなく煩わしいのでもう一度煙草の煙を吹きかける。
「うぇっぷ」
 何とも言えない声と共に咳き込み、もう一度涙目になりながら睨みつけられそれをどこ吹く風と妹紅は受け流し次の話題を振る。
「そういやこの間、何度目か忘れたけど紅魔のところが異変起こしてたのアンタん家の巫女も行ったんでしょ? どうだった?」
 この間天狗が投げて回った新聞を思い出しながら妹紅は言う。
 顔にはからかうような笑みが含まれており、それに気付いた早苗は大きく、今までにないぐらいの溜息を吐いた。
「いやー、てんでダメですねー。って博霊の巫女に聞いてないんですか?」
「あの子はさー、真面目なんだけど説明下手でねぇ。『レミリア倒して仲良くなった』ぐらいしか言わないんだよね」
 詳細に聞いても覚えてないのかそれとも枝葉だとでも思っているのか今代の巫女は簡潔にしか物を言わないと愚痴りながら妹紅は問いかける。
「んで、ちょい詳細聞かせてよ」
「そうですねぇ。確か人妖の子は美鈴さんと格闘したらしいですよ」
「弾幕ごっこをしろよ!」
 思わず妹紅ですら突っ込みを入れてしまった。
 傷だらけだと思ったらそんな事があったのかと妹紅をつい頭を抱えたくなる。いや、実際に抱えているのだが。
「うちの巫女も同意見でした。それで、博霊の巫女がパチュリーさんの相手をしている間にうちの巫女が館を歩いていて……。あの妹さんに出会ったらしいです」
「あちゃ。それはちょっと、荷が重いね。……博霊の巫女はそこら辺何も言ってなかったなぁ」
「流石博霊の巫女ですね。文々丸新聞の一面になったくらいの声だったのに動じなかったんですかね」
 パチュリーを倒して新しいメイドを倒して悲鳴をスルーしてレミリアの所まで行った巫女が容易に想像出来てしまった事に妹紅は笑い、冷静に会話する博霊の巫女を前にして少し動揺するレミリアの姿が浮かんで妹紅は声を押し殺して肩を揺らしながら笑う。
 それに釣られたのか、同じ事でも考えてしまったであろうお茶を口に含んだ早苗が噴出した。
「ちょ、何してんだお前」
「すみません。いやぁ、つい貰い笑いを!」
 茶屋のおばちゃんが持ってきた布巾でテーブルの上を拭い妹紅は笑みを浮かべながら話の続きを促す。
「それでですねぇ、巫女がレミリアさんと弾幕ごっこしていて、半妖の子がレミリアさんと格闘している間です。結構長い間だったんですけどうちの巫女は逃げまわってたらしくて」
「ははぁん。修繕費がそっち持ち?」
「折半で勘弁して貰いましたよ! でもしばらくフランちゃん恐怖症で五月蝿くて。私たち三柱で死に程しごき抜く事になりましたねー」
「流石にそれは許してやんなよ、あの子には荷が重いだろうに」
 三柱の神が行う責め苦はおそらく閻魔が取り仕切る地獄に近い状態だっただろう。
 幾ら妹紅でもそれは遠慮したいと思うのだから人間には地獄も生ぬるい苦行だったのかもしれない。
「それで次は誰が異変を起こすかクジですね! 私はラスボスで頑張りたいなぁ」
「それは無理じゃない?」
「な、なにおー!」
 流石に無理だろうと言う妹紅にいやいや私はやれますよと言い張る早苗。しばらくの間、小一時間程言い合っていたがおばちゃんが汲み直してくれたお茶を飲み一息吐く。
 そこでようやく言い合いは納まり、早苗はテーブルの上にへたり込みぼやくように呟いた。
「あーあ、分社増やしたいなー」
「アンタねぇ。寺もあるんだからそこそこにしておきなよ」
 面倒事になりそうだから欲張るな、と言って紫煙はまた上に向かって吐き出す。
 興味がなさそうな、けれどどこか里の事を考えているような態度を取るのを見て早苗はにやにやと表情を変えた。
「おやおや、里の番人二代目ですか? いやぁ、妹紅さんが守るなら怖いなー。巫女も形無しなんじゃないですかねぇ」
「アンタん所の巫女は余裕で泣かせると思うよ。あとごたごたは勘弁だっていうのは本心だ。あぁ、ついでだからこれあげる」
 どこからか取り出したのは、一枚の色褪せた写真。
 内容はいつかの時代ならばありふれた、今でもよくある宴会の風景。
 二柱の神は酒の飲み比べを行い早苗は顔を真っ赤にして地面で伸びておりそれはまだ早苗が人間だった時代の写真。
「うわっ、懐かしいですね! この時はまだお酒弱くて……。今は天狗とも勝負して勝てるんですけどねー。うーわー。霊夢さんも魔理沙さんも居るー。懐かしいー!」
 一人でやけにテンションをハイにしている早苗を見ながら妹紅も懐かしさを覚える。過去に浸る事はなく過去に飲まれる事もないとしても。
 昔を懐かしむ事が今の妹紅にはできる。
「前に誰かから貰ってね。保存が大変だからさ。別に捨ててもいいよ」
「そんな事しませんよー。奇跡を舐めてもらっちゃ困りますよ! 永遠に保存だってしてさしあげましょう!」
 妹紅の手から写真を受け取り早苗はそれを大事そうに胸へと仕舞う。
 それを見届けてから、最後にとでも言うように妹紅は立ち上がった。
「んじゃ私はいくよ。輝夜が何かやっても私は里に引っ込んでるつもりだからさ。……途中で来たら遊ぶ気はあるけどね」
「じゃあ里の方を通らせますねー」
 早苗の言葉に苦笑しながら妹紅は代金を置いて茶屋の外に出る。
 陽は落ち始め夕焼け空は赤く空と地上を染めていく。
 誰かの家でも行くかと考えながら、空の下を楽しそうに歩く。






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