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 人里を歩いている男が居た。それだけならば特筆するような事ではないのだが、ただ一つ言えば男の周 りには子供たちが集まっている。
「おっちゃんおもちゃ作ってくれよ!」
「私にも八卦炉作ってくれるって言ったよねー?」
「何言ってんだ俺の方が先でーす!」
「……君らなぁ。ほら散った散った。また今度遊んでやるから」
「「「いつもそんな事言うー!」」」
 声を揃えて言う子供たちに苦笑しながら男は懐から飴を三つ取り出して子供たちに与える。
 そして人里から少し離れた場所を見ながら言い聞かせるように子供たちの頭を撫でた。
「おじさんはこれから大事な用事があるんだよ」
 視線の先はには、ここからでは見えないのだが小さな古屋が建っている。
「えー。彼女ー?」
「恋人ー?」
「嫁さんー?」
 三人の言葉には静かな笑みだけを返し男はそのまま歩き、これ以上は構ってもらえない事を悟った子供たちは口々に文句のような事を言いながらどこかへと走り去った。
 気にせずに歩みを進め、男は古屋の近くにある川原で足を止める。
「子供に人気があるなぁ。うらやましいよ」
 男が声のした方へと視線を向けると少女が一人、川の流れを見ながら横になっていた。
「君も十分に人気だろう、藤原」
「最近のアンタ程じゃないよ、香霖堂」
 川原で寝そべっている少女は藤原・妹紅。
 道を歩いていた男は森近・霖之助。
 霖之助は歩き疲れたように寝そべっている妹紅のから一人分離れた隣に腰を降ろす。
「久しぶりだね。何年ぶりかな」
「十何年前に紅魔館が何かやった時以来じゃない? 私は忙しかったからろくに知らないけど」
 頷いて霖之助は苦笑を浮かべて何かを考えるように流れる川の流れを見る。妹紅はタバコを口に銜え、やはり川の流れを見ているのみ。
 互いに追憶に身を委ねているのかもしれないが、それは二人の心を覗く事が出来なければわからないだろう。例えば、さとり妖怪でなければ。
「……うん。あれからか何年経つのか覚えているかい?」
「あれっていうのがわからないけど何十年は経ってるんじゃないか? 私は、もう覚えておくのも面倒くさいよ」
 紫煙を口から吐き出して妹紅は苦笑を浮かべた。それに霖之助も違いないと苦笑する。
「そういやあんた、僕じゃなくなったんだな」
「流石にこの顔で僕はおかしいかと思ってね。それに、なぁ。霧雨の娘が二代続けて僕と言うようになっては怒られてしまいそうだよ」
 誰に、とは言わず霖之助は肩を竦めた。
 川を眺める表情はすでに壮年と言って間違いはなく、人間でない事がわかっていたはずの銀髪は白髪が混じり始めるようになっている。
 人妖ですら歳を取る程の年月。それは人間ならば何度かは寿命で死ぬ程に長い。
「はは。そりゃそうだ。…そう言えば商売は上手くやってるの?」
「君と同じぐらいにはね。昔と比べて妖怪は大人し過ぎるから、嘆かわしいものだ」
「平和でいいと思うけどねぇ」
「堕落した妖怪なんて漫談にもなりゃしないよ」
 適当に言い合いながら真上にある太陽が傾く間、ずっと川を眺め続ける。
 何に想いを馳せているのか。何を思っているのか。
「慧音が死んで結構経つけどさ、寺子屋じゃあちゃんと慧音のことを教えてるんだよ。続くものなんだよねぇ」
 何本目かわからないタバコを吸いながら妹紅が過ぎ去った者の存在を口に出した。
 かつて生きていた親友への言葉。尊敬の意が込められた言葉。
 同じ人物を知る同士として二人は彼女の事を思う。
「藤原。君を人を看取る事を哀しいと思うかい?」
 唐突に霖之助が口を開いた。幾人もの友人を看取ってきた妹紅に対し、幾人かの友人を看取った霖之助が、問いかける。
「そりゃ、ね。友人が減るのは寂しいよ」
 それに対し妹紅は空を見ながら煙を吐き出した。
「だがね。勝手な言い分だが、君に看取られた人は笑っていて欲しいと願うんだよ。昔、妹分が言ったんだ。
 『お前も誰かに看取られて死ぬんだから私の事は笑って見送れよ。いつ死ぬかわからないし死ぬのかもわからないけどな。
  私は幸せだった。子供もできたし良い夫も居た。それに看取ってくれる奴も居るんだ。
  これ以上に幸せな事はないだろ?』
 とね。結局ツケは払ってくれなかったが、あれでそれまでの分を帳消しにしてもいいと思える言葉だった」
「それで?」
 辟易したような顔で妹紅に視線を向けられ霖之助は苦笑を返す。
「君よりも生きてはいないしこれから何十年か、何百年後かに死ぬ身だ。けれど。君は多くの人生の最後に、傍に居る事を許されていると考えればいいんじゃないかな」
 軽く言われる言葉。妹紅はそれに頷く事はない。
 簡単に頷けるはずがない。永く続いている人生で得た価値観が簡単に揺らぐ事はない。
「頭の隅には置いておく事にするわ。ただ覚えてるかわからないけどね」
「うん。怒られなかっただけで幸いだ。ああそうだ。これを君にあげよう」
 霖之助が懐から出したのはいつかの宴会の際に取られた一枚の写真。
 誰を中心に写しているわけでもなく。ただその場を撮ったのだということがわかるような、そんな写真を妹紅の前に出す。
「懐かしいなぁ。いつの写真?」
「いつかの写真だって事は確かなんだが。慧音も君も映っている事を思い出してね。どうせ持っていても仕方のない物だし適当にやってくれ。誰かにあげたって良いよ」
 写真が受け取られたのを見て霖之助は立ち上がる。
「それじゃあそろそろ行くよ。最近は人里に居る事も多いから会う事も多いと思うがね」
「ん? 香霖堂も廃業するのか?」
「まさか。ただ、人妖の娘が居てね。その娘が何故か巫女と張り合ってるんだ。ならば、とお節介を焼きたくなるのは年寄りの性分だろう」
 昔を懐かしむ微笑みを最後にして霖之助は立ち上がり背を向ける。
「それじゃあね、藤原。次に会った時は酒でも呑み交わそう」
「うん。それじゃあまた、香霖堂。巫女でも苛めながら呑もう」
 妹紅も起き上がり手を挙げる。
 背を見送る事もなくそのままの体勢で妹紅は川の流れを眺め続け、見つめ続ける。




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