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「子供を作ろうと思うのだけど、霖之助さんが相手してくれない?」
「……何の冗談だい?」
 

二人の日常編

 移ろう日常として僕は本を読んでいる。
 無理心中の物語として有名な浄瑠璃の本と言えば多くの人が思い至る事が出来るだろう。
 その本を読んでいる最中、霊夢は言った。
「そろそろ巫女も代替わりの時期かもねぇ」
 そこから、最初の言葉に繋がる。
「別に子供が居なくてもそれっぽいのを紫が連れて来るらしいけどね。見つかるまで長そうじゃない?」
 だからと言って子供を作るなんて暴論に過ぎるだろう。
 理由がきちんとしているなら僕もきっぱりと断る事はしない。
 お茶を濁すか、別の断り方はするだろうがね。
「霊夢、子供の作り方は知っているか?」
「巫女なんだからそのぐらい知ってるわよ。説明でも欲しいの?」
「女性なんだから言葉にしない常識は弁えて欲しいよ」
 しかし。それでなんで僕に言うのだろうか。
「作りたいだけならそこらの男でも引っ掛けてくれば良いじゃないか。君くらいの器量ならすぐに見つかるだろう」
 里の男も女に飢えてやしまいが。それでも霊夢と一晩を共に出来るなら並の男なら喜んで尻尾を振るだろう。
「やぁよ。後腐れがありそうじゃない」
 そう言っても誰を選んでも後腐れなんてなくなるはずがないだろうに。
「安心しろ、と言っていいのかわからないがどの男を選んでもそんなに変わらないだろう。それにそこら辺を求めるなら」
 紫さんが見繕ってくれる、と言おうとして首を横に振る。
 それだけのために外から人間を連れて来るのも面倒か。
「無難なのが霖之助さんだと思ったんだけど」
「そもそも僕の半分は妖怪なんだ。その子が巫女になれるわけないだろう」
 何でそこに気付かないかなぁ。
 例え子が出来たとしても四分の一が妖怪だ。完全に人間とは見なされなくなるだろう。
 それでは博麗の巫女としての働きは出来なくなるだろう。
 妖怪側の血が混ざればそれだけ妖怪に近くなる。同族を殺す禁忌を侵す可能性をむざむざとする者は居ないだろう。
「そう言われればそうね。あー。里の男を誘ったら霖之助さんみたいにごねたりしないで誘われてくれるかしら?」
「僕はごねてるわけじゃないんだけどね……。昔は歩き巫女がその役目をしていたようだし、君がそういう事をしても間違いじゃないよ。子を為すためなら、仕方もないだろう」
 と内心で言い訳するのは目に見えている。
「男は大抵、好兵衛なんだしね」
「何言ってるのよ。茂平さんとか居るじゃない」
「すけべの語源だよ。僕としては、好きな人とそういう事をした方がいいとは思うけれどね」
 霊夢に好きな人間が出来るのかどうかという前提は置いておくにしても。今の時代は比較的平穏なんだ。
 好意を持つ相手と結ばれ、子を成す。これ以上の幸せはないだろう。
「そんな人が居ればその人に頼んでるわよ。いないから手ごろだと思った霖之助さんに頼んだんじゃない」
 迷惑な話だ。
 余人が羨ましいと妬ましく思うのは理解してるのだが、迷惑としか思えない。
 何故なら僕は僕だ。彼女を抱く気には流石にならない。
「男冥利に尽きるね。さぁ、僕は無理なんだから他の男を漁って来るといい。出来れば夏と秋合計で七人の男と寝れば良い子も産まれるだろう」
「はぁ? どういう事?」
「七度竈に通せば良い物になる植物があるんだ。夏は美しい白い花を咲かせ。秋には綺麗な紅葉で彩られる。霊夢は丁度紅白だからナナカマドに見立てれば良いだろう。子供を孕むならば夏がいいのだろうが。白で花が咲く。処女をやめるなら秋だな」
「花が散るって? そんなバカみたいな理由は面白くないわね」
 それはそうか。
「なんだかんだ言っているけれど、別に子供を作る意味はないんじゃないか? 別に巫女で居る事が苦痛というわけでもないんだろう?」
 逆に言ってしまえば楽しくもないという事だが。
 そもそも巫女である事が普通なんだからそこに楽しさも何もないか。
「それはそうなんだけどねぇ。巫女を譲った後、何をしようかなって言うのもあるじゃない? ここで働くのもいいかなって思ったんだけど」
「僕の店は僕だけで十分だよ」
「そりゃそうよねぇ」
 言いながら霊夢は相変わらず茶を啜っている。全く、やる事をやるなら早く行けばいいのに。
 けれど霊夢のそういう状態を思い浮かべるのは正直難しい。僕が彼女を性の対象としてみていないからではなく、単純に霊夢が霊夢であるからだ。
 男の前で乱れる姿はそう簡単に想像できないのは仕方ないだろう。
「うーん。明日にでも漁って来る事にするわ」
「どうせ明日には忘れてるだろうに」
 自分で言っていて思ったが、僕の言い方だと霊夢が僕を対象として誘惑していたように聞こえてしまうな。
 不特定多数の男ではなく、僕のみを。
「ん? どうしたのよ変な顔して」
「何でもない。……しかし君も子を為す事を考える歳か。やれやれ、随分先だと思ったがまた唐突に訪れるものだ」
 魔女でもなければ半妖でもなく。彼女は巫女だ。
 ならば子を産む必要も出てくる。博麗の血を絶やす事はあまり褒められた物じゃない。いや、まぁ今までだって何度か絶えているが、霊夢の実力を考えれば子もまた同じように期待できる。
 だからこそ子が出きる事は良い事なのだ。幻想郷にとって。
 彼女にとって良い事かどうかはわからないが。
「魔理沙はまだ先でしょうから安心していいんじゃない? まっ、私も夢見る少女じゃいられないって事ね」
 深いようで、何も深くない話しをありがとうと言えばいいのだろうか。
 どうにしろこれも彼女の気まぐれという事か。仮に僕が許可していたらどうしていたのか。後述のためにでも聞いてみるかな。
「は? 産むに決まってるじゃない。私の話し聞いてた?」
「……香霖堂は今日も僕一人で十分だよ」
 跡取りもいらないしな。全く、禄でもない話だね。
「はぁ。どこかに良い男でも居ないものかしら」
「里を歩けば一人や二人居るんじゃないか」
「じゃあ歩きにいってみるわ」
 お茶も飲み終わったようで彼女は来た時と同じように店から出ていった。
「……まぁ、犬猫じゃないんだから、良い男なんて早々見つかるわけもないと思うがね」
 後ろ姿を見送り、少ししてから呟いた。
 溜息を吐きながら僕は本の続きを読み始める。
 霊夢ももう少しこの本に出てくる女性のように一途な想いを持って欲しいと考えながら。

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