くさなぎじんか

「うん。これで、いいだろうか」
 今日も今日とて香霖堂は寂れていた。魔法の森の近くに建てられている香霖堂に来る人間は少なく、妖怪にも また品物に興味があるものが少ないからであろう。
 そして、今現在森近・霖之助は自分の親しい方に属する少女、霧雨・魔理沙から手に入れた草薙の剣の手入れ を行っていた。
「使ってないとは言え、たまには汚れを落とさなければならないだろうしね」
 神剣とは言え、それは太刀。
 材質から言って錆びることはなく、また腐食もしないのだが、しかし。
「やはり大事な物だからね。こういうものは大切にしたいものだ」
 呟き丁寧に刀身を磨く。磨いた後は様々な角度からそれを見回し見落としなどがないかを確かめ。
 抜き身のままのそれをもって外に出ると、太刀の心得などはないが一振りし、周囲の草を凪ぎ剣の状態を確かめ< る。
「うん。良好だ」
 まるで自分の子を慈しむような珍しい表情を見せて霖之助は店の中へと戻り剣を鞘へと戻す。
 やる必要もないが、これも自分の持つ物への愛情と考えれば霖之助は満足して太刀を大事に店の奥へと立てか ける。
 魔理沙などが見ればどれほどの物か目ざとく解ってしまうと考えるが、しかし。
「……けれど、無用心ではあるか」
 眉を寄せて霖之助はもう一度剣を手に取りカウンターまで戻った。
 これをどこに仕舞うかというのは非常に問題である。
 いつもの場所に仕舞っておけばいいのかもしれないが、しかしそれでも若干の不安を抱くのは愛情ゆえにか。
「……うん。とりあえずは、ここに置いておこう」
 呟きながら霖之助はカウンターの裏を、開ける。
 大切な物を仕舞うために霖之助が作った特製の場所である。いつか魔理沙が気づくかもしれないが今日ではな いと思い。
「霖之助さん、いる?」
「ん? あ、あぁ。なんだ。霊夢か」
「なんだとは失礼ね。来るのが迷惑なのかしら?」
 急いで蓋を閉めて怒ったような顔をする霊夢へ向き、霖之助は苦笑する。
「代金さえ置いていってもらえれば僕は大歓迎さ。それで、何の用だい?」
「ええ。霖之助さん色々弄るの得意よね? 縁台が壊れちゃって。直してくれないかしら」
 溜息をつきながら言う霊夢に、思わず溜息を吐き返してしまう。
 どうすれば縁台が壊れるのか、と。
「ちょっと萃香が壊しちゃったのよ。昨日宴会をした時にね」
「それは、また。詳しく聞くと長そうだね。……とりあえず工具などはあるのかい?」
 店の中にある物を見繕いながら霖之助は行く準備を行う。滅多に店の外に出ることはないが、霊夢の頼みなの だ。無理やりにでもつれていかれることになるかもしれない。
「ええ、一応あるわ。軽い修理なら私でも出きるけどあれだけ壊れるとね」
「……材木とかは萃香君にでも作ってもらうか、紫さんにでも頼んでみるとしようか」
 どれだけの惨状になっているのかを想像して溜息を吐いて霖之助の準備が終わる。
 手には軽い大工道具に、少しばかりの材木など。勿論これで直せるわけがないが、しかしそれ以外の物は向こ うで調達すればよいという考えだ。
「誰にだって手伝わせるわよ。縁台が壊れたらお茶が美味しく飲めないもの」
 機嫌悪そうに言う霊夢は外に出て、その後を追うように霖之助も外に出る。
 どうせ誰も来ないだとうと鍵はかけず、また魔理沙も昨日あったという宴会に出たのだから昼までは起きないだ ろうと考え。


 ++++


 無用心にも何もせずに霖之助が外に出た後、香霖堂に一つの異変が起きていた。
 いや、異変というものでもないのだが、誰もいないはずのカウンターから一つの物音が響く。
「……ふぅ。現在の主は、粗忽者だな」
 カウンターの下から凛とした少女の声が響き、ついでゴツン、という音が響く。
 下を見れば、多くのものが音に納得し、次の瞬間驚くだろう。
 少女の頭がカウンターを突き破っている事に。
「……主に、影響をされたのだろうか……」
 頭を引っこ抜くと同時にその中から幾つかの物が落ちその頭に当たる。
 だが痛そうなそぶりなど微塵も見せることなく少女は困ったような表情になる。
「……主の大切にしていた物が……。……まあ、大丈夫だろう。主が帰ってくるまで我が守ればよいのだからな。 うむ」
 無理やり自分で納得し、草色の髪と、灰色の生地に雨のような柄の和服を着た少女は上のカウンターを避け て立ち上がる。立ち上がる際に多くの物を懐に入れると、周囲を見渡した。
「……うむ。こうして見るのは、初めてだな」
 何かを納得しながら少女は頷き。
「……しかし。うむ。粗忽物であり、危機管理意識というものが足りないな」
 店の扉まで近づき閉めようと手を伸ばし、しかし手を止めて少女は何かを考え込むような表情になる。
 端麗な顔には何の表情も浮かんではいない。だが、顎に手を当てて数秒。
「……よし。私が店番を行おう。これも、普段の礼というものだ。ふふ。主殿は喜んでくれるだろう」
 微かな笑みを浮かべて、少女は楽しげな口調で呟く。
 想像するのは、主であるその人が帰ってきた時に驚き、何が起きたのだ、という不可解な表情。
 だがきっと嬉しいはずだろうと思い浮かべ。
「よし。まずは……。乱雑な店の中を整理するべきだろうか」
 意を決して頷くと少女は手じかにある商品へと手を向けるが。
「……ふむ?」
 物が畏怖するのを、感じて手を伸ばすのを止める。
「……ふむ。……何、気にするな物よ。我とて今は同じ主の物に過ぎぬ。そこに序列はあろうが同じ仲間では ないか。畏れを抱くな物よ。我とて悪戯に断つことはせぬよ」
 優しげな、そして慈しむような口調で、まるで言い聞かすように言い、商品を手に取る。
「とりあえずは、色々置いて、整理のしやすいようにせぬばなるまい。主は大切に扱うが、だが乱雑に扱い過 ぎる」
 文句を言いながらも口調はどこか楽しげで、少女は整理を開始する。

 そして開始すること三十分程。

「…………剣たるもの。何事もばっさりとやらぬばならぬのだよ」
 空を見上げながら、何かからの非難をかわすように立つ少女の姿があった。
 棚の上にあった商品は全部下に降ろされ、床においてあり。だが、それ以上少女は何もしようとしない。
 いや。
 出来ないのかも、しれない。
「……うむ。かろうじて壊しては居ない。これは後でやるとして、よし、次は外の草刈だ。我の本業発揮だとも」
 浮かんだ汗を袖で拭うと少女は外に出る。
 空を見ると雲ひとつない快晴であり、身が入るというものだ。
「うむ。我が、草薙という名の通り、雑草という雑草を、可哀想だが主のため、薙ぐ!」
 少女、草薙は大地に向かい宣言すると、目を抜き身の太刀を思わせるように鋭くし腕を一気に振りぬく。
 果たして大地に生えていた草は腕から発せられる剣圧で一斉に宙に舞い、落ちる。
 草薙の剣。またの名を天叢雲剣。雨の竜から取り出され草薙の名を持ち、天に奉納され天叢雲剣となり、そ
して人の手に渡り――人の世から消え去った、神剣。
 多くの人々の信仰を得て、曲解である幻想を受け、この地へと流れ着いた剣。
 それはすでに、伝承以上の力を持つ。
「……ふぅ。これで、帰ってきた主は喜ぶであろう。何故こんなにも綺麗なのかとな」
 更に言うならば草薙の余波によってここに低級な妖怪は近づくことができない。竜から生まれた剣の威圧に 敵うものは並以上の存在だろう。
「さて。外の草刈は終わった。次はいよいよ、決戦である中の……。うん?」
 草薙が意気込み中に入ろうとして、先ほどまで快晴だった空から水が落ちることに気づく。
 それは雨。
 徐々に落ちてきた水滴は瞬く間に大雨へと変貌する。
 草薙の剣の、もう一つの名であり天叢雲剣の効能、なのかもしれない。
「わっ。は、早く中に入らなければ、錆びはしないが、濡れてしまう! 主に綺麗にしてもらったこの身体が!」
 急いで中に入りひとまずの安心を得るが。しかし草薙は気づかない。店の裏に洗濯物が干してあったことに。
 気づかないままに草薙は中に入り物を元に戻そうとするが。
「わ、いきなり雨が降るとは予想外だぜ。香霖、風呂貸してくれー」
 草薙が振り向けばそこにはエプロンドレスを着ている金髪の少女。片手に箒を持ち、水が滴る髪はどことなく
少女ではあるが艶やかさを持ち、その瞳は活力に満ち溢れており。
 草薙の主を呼ぶ声に。親しさがある。そんな少女の名は。
「霧雨・魔理沙……!」
 聞きなれぬ声を聞き魔理沙の顔に険が混じる。そして中の惨状を目に入れ、自分のことを棚上げして一言。
「……誰だかわからないけど、ドロボウか!」
「それは貴様だろう! 主の物を勝手に借りると称して持っていっては未だに帰ってくるモノを見たことがない!」
 自分の思考を遡り、草薙は怒りを込めて言う。主の心を代弁するぞという意志を持って。
「それに、何だ香霖とは! 我が主の名は森近・霖之助! 香霖堂の店主ではあるが、香霖など呼び捨てに することができるのか! 仮にも年長者に対して! うらやま……無礼だぞ!」
 いきなりの、初対面の相手に言われ、濡れたままの魔理沙はぽかんとした顔をしていたが、しかしそれで黙る ような魔理沙ではなく。
「なっ。別にいいだろ! 香霖と私の付き合いの長さを知ってるのか? 私と香霖は十年以上の付き合いだぜ。 この八卦路だって香霖が私にくれたものだしな。香霖だって、私の事を許してくれてるのに赤の他人のお前に言 われる筋合いはないな」
 叩きつけられた言葉に利子をつけて魔理沙は言い返す。
 実質がどうなのかはわからないが、多少の文句だけを言っている霖之助との間に赤の他人が口出しする筋合 いはどこにもないと。
「親しき仲にも礼儀ありという言葉を知らぬのか! ふん、それに、与えられたのは貴様が未熟だからだろうが! 付き合いの長さを言うのもまた、浅い! 我は主、森近・霖之助殿に最も大切だと言われたモノだ!」
 誇らしげに無い胸を張り草薙が言って、魔理沙は衝撃を受けたような顔になり、顔を真っ赤にして言い返す。
「な、私はよく来てるけどお前のことなんて知らないぞ! 本当にそうだって言うなら、名前と素性を言ってみろ!」
「よく聞け! 森近・霖之助に最も大切なモノといわれた我が名は……っと、いかん。これは、貴様には秘密だと、 主が言っていたな」
 突然首を振り、冷静さを取り戻し草薙は首を横に振る。
 それに更に衝撃を受けた顔をして、魔理沙は唇を噛み締め、自分の中に渦巻く感情の正体を探らぬままに、宣 言する。
 その顔に浮かぶ水は、雨かそれとも。
「……み、認めないぜ! それに、私の腕が未熟かどうかを知らしめてやる! 弾幕勝負だぜ!」
「ふん、いいだろう! 我が主に代わり、貴様を泣かせてやる!」
 雨はいつの間にか晴れ、天気は絶好の弾幕日和となっていた。


 ++++


 その頃、霖之助は。

「……うん?」
「あら? どうしたの霖之助さん」
 何か嫌な予感に背筋を震わせ、縁台を直しながら霖之助は首をかしげる。
「なんとなく、嫌な予感が」
「……気のせいよきっと。ほら、早く直す直す」
「君は見てるばかりじゃなくて手伝ってくれると嬉しいんだが」
「休憩になったらお茶を出してあげるわよ」
 直している光景を見ながらお茶を飲む霊夢に疲れたような顔をして霖之助が言うが、微笑して霊夢は言い返す。
 自分は絶対に動かないという意志を込めた視線で。
「……それは、ありがたいね」
「ええ。ほら、わかったら早く直してよ」
「はいはい」


 ++++


 空中を二人の少女が舞っていた。
 一人は魔女の格好をしている魔理沙。一人は和服の少女である草薙。
 魔理沙は風を切り裂くように疾走し、草薙は風に乗り、揺られるような曖昧な動きで宙を舞う。
「そんなんじゃ、弾幕勝負には勝てないぜ!」
 幻想郷最速の地位は譲っているとしても、魔理沙の速度が衰えているわけではない。空を翔る速さに追いつけ るものはそれこそ風を操る天狗しかおらず、挑発するかのように魔理沙は草薙の横を、飛翔する。
「ふん。こういうものは下手に撃てばよいわけでもあるまい。見極めることが大事なのだろう!」
「はっ。弾幕はパワーだぜ!」
 言って、魔理沙は自分の持つ符を掲げて宣言する。
「恋符「ノンディレクショナルレーザー」!!」
 宣告と同時、魔理沙の八卦炉から三つの太い光が回転し草薙を狙い打つ。その光から逃れられるものなど、 通常ならばいない。
 だが。
「ふん! 神剣「厄災の草逃れ」!」
 だが、草薙が己の符を宣告し、大地から無数の草が草薙を覆い隠す。
「そんな草! 突き破るぜ!」
「英雄の機転、突き破れはせぬぞ!」
 草を貫くと思われた光は、だが草によって数秒の間防がれてしまう。草薙の剣を持ったヤマトタケルの話にあ る炎を防ぐ場面のように。 「なっ!」
 防ぐ間に草薙は上空へと避けると驚く魔理沙に対して更に符を宣言。
「手早く勝負を付けさせてもらう、主が帰る前に! 雨龍「八岐大蛇」!」
 宣告と同時、その符から七つの首を持つ水で出来た透明の龍がうねりをあげて眼下を飛ぶ魔理沙へと襲い 掛かる。
「ちぃっ」
 首をもたげ襲い掛かる龍のアギトを身を捻らせ避け、緩急をつけて潜り抜け、その全てを突破し、   「温い! 神ですら酒を捧ぐことで殺せた我が母を、それで避けられると思うてか!」
 回避した龍が踵を返して魔理沙、そして草薙のいる場所へと戻る。
 魔理沙は七つの頭を持つ龍にまたしても追われるが、しかし。
「弾幕勝負は、先にやった方が勝ちなんだぜ!」
 だが、魔理沙は振り返ることなくミニ八卦炉を突き出し、帽子の中から一つの符を取り出し宣告する。
 それは、魔理沙の代名詞とも呼べる技。
「恋符「マスタースパーク」!」
 もはや避けられようのない、超級である極太の光がその手から放たれ、草薙は眼を見開く。自分の八岐大 蛇が直撃するのが先か、それとも魔理沙のマスタースパークが届くのが先か。
 草薙は決断する。これを避けることはできないのならば。
「喰らえ! 八岐大蛇!」
「当たれ! マスタースパーク!」
 幻想郷のどこからでも見えるような巨大な光が空を貫き。
 幻想郷の全てへ響くような龍の咆哮が木霊した。


 ++++


「……霊夢。僕は嫌な予感がするんだが」
「あら。奇遇ね、霖之助さん。私もそんな気がするわ」
 修理もようやく終わり一息つこうとお茶に手を伸ばした霖之助が見るのは自分の店である香霖堂あたり から伸びる白い光。  それは誰が見ても解るように、マスタースパーク。
 光は眼を覆いたくなるような閃光を放ち、そして徐々に小さくなってゆき。
 それに呼応するように何かの唸り声のようなものが響き渡る。
 それもまた、香霖堂からであり。
「……さて。お茶はまた今度貰うとしよう。あんなことをやってる子がいるみたいだからね」
「あら。霖之助さんがねずみ避けでも仕掛けたんじゃないの?」
 霖之助が立ち上がると同時に霊夢も立ち上がりながら問う。
 首を横に振りながら霖之助は溜息を吐いて歩きだす。
「僕はあんな物騒な物を使われるような物を仕掛けたつもりはないよ」
「じゃあ、物騒な物が勝手に動いたんじゃないかしら」
「それだったら、僕は凄く困ってしまうね。怖くてあそこで寝れないじゃないか」
 少し駆け足で霖之助は歩き、宙に浮きながら付いてくる霊夢に答える。
 何があったのかと思いながら。
 厄介ごとではないといいな、とも思いながら。


 ++++


「……っ。こ、この白黒ねずみ。まさかここまでやるなんて……」
 ぼろぼろの姿になった草薙は大きく肩で息を吐きながら箒を支えに立っている魔理沙を睨む。
「はっ。私が、未熟者じゃないって、わかったろ? つまり、私と香霖の仲は、すこぶる、良好、だぜ」
「ッ! ど、どの口が、まだ……! っと、くっ。この気配、主……! きょ、今日はここで退く! だが覚え ていろ! 主の物を勝手に持っていくな! そして、主は我の主だ!」
 言って、すすだらけの姿のまま草薙は香霖堂の中へと走り、だがそれを追いかける気力もなく魔理沙は そこに倒れる。
 七つの首を持つ龍を模した一撃の威力は大きく幾ら死ぬことがない弾幕勝負とはいえ直撃を喰らえば、 とても痛いに決まっている。
「……はっ。何言ってるんだぜ。香霖は私の香霖で、香霖は香霖だぜ……」
 最後に、草薙へと、いや自分にも聞こえない小声で言うと、魔理沙の意識は暗転した。


 ++++


「それで。何があったんだい?」
 太陽が中天を過ぎた頃にどうにか香霖堂へと戻れた香霖が見たのは、ずぶ濡れの衣服と笑顔で倒れて いる魔理沙。そして何故か棚の物が全部降ろされている香霖堂。
 一日が経ってから自分の布団で寝ている魔理沙に聞けば。
「泥棒が居たから退治しただけだぜ」
 と、布団に座ってご飯を食べながらそれしか言わない。
 結局散らかった中は霖之助が自分で片付け、洗濯物も洗いなおしたのだが。霊夢が魔理沙の看病をした ことだけは感謝できるのかもしれない。
「……で、どんな泥棒だったんだい?」
「んー。何か和服の奴だったな。それ以外は解らないぜ。かなり強かったけどな」
 口の中にご飯を入れながら喋る魔理沙にお茶を出し、霖之助は溜息を吐く。
 いったい何が起きたのかは解らないが、災難な一日だったと。カウンターの物入れも壊れているし、何故か 草薙の剣も少し煤けているように見えた。
 何が起こったのか全く解らないのも、霖之助の心を重くする。
「……君と霊夢しか泥棒は居ないと思っていたのだけれどね。これは、何か警戒をする必要があるかな」
「まっ、私が居れば平気だぜ」
 親指を立て言う魔理沙に霖之助はもう一度溜息をつく。
「はぁ。じゃあ、まだ少し寝ているんだよ? 大きい怪我はしていないが、念のためだ」
「無理も通せば道理になるんだがな。まっ、香霖の頼みなら聞いてやるぜ」
 笑みを浮かべる魔理沙の頭を二度、撫でるように叩いて霖之助はカウンターにおいてある草薙の刀身を見る。
「……うーん。けれど、煤けているとは。何があったんだろうか……」
 首を傾げる霖之助の疑問に答える声はない。けれど。
「ん? 雨か……」
 外からは雨がどこかどことなく悔しげに降り始めていた。


END



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