おまけ



「僕は忠告したんだが」
 夜。人間が通ることのない道を呆れた顔で霖之助が立っていた。
 視線の先には一つの骸と、三人の妖怪。
「ん? 誰? 知り合い?」
「私は知らないわよ? でも人間じゃなさそうね」
「人類なのかー?」
 三人の妖怪たちに溜息を付いて霖之助はその骸へと近寄っていく。
「別に人間じゃないさ。ところであまりソレの周囲で遊んでいたら巫女か魔女でも現れると思うんだがね」
 釘を刺すように言えば、妖怪たちは顔を青ざめ、焦り始める。
「うわ、巫女は怖いから、早く逃げなきゃ!」
「そ、そうね。ほらルーミア早く逃げるわよ!」
「んー。私はもう少し食べてからいくー」
 そそくさと森の中へと逃げていく二人を尻目にルーミアはその死体の手を口に含む。
 手首を口の中に入れ、一気に噛み砕く。やはり皮だけだったのが災いしたのかすぐに眉を潜めその骨を外へと吐き出した。 「……ふむ。あぁ、片方の手は食べないでくれるかい? 嵌めている指輪が欲しいんだが」
「はいどうぞ」
 指を無理やり抜き取り、指ごと目的の指輪を渡され霖之助は溜息をつく。下手に触れれば血がついてしまう。だが、それも仕方がないものだろうと諦め、布で軽くぬぐい指輪を懐へと閉まった。
「しかし美味しいのか?」
「んー。そんなに。でも妖怪は人間を食べるものらしいから食べないといけないかなー」
 二の腕を噛み千切り、口どころか服が血によって赤くなっていく。
 夜中に見れば、確かにこれは恐怖を与えられる。
 妖しく、怪しい者として、人間は恐れ、怯えるだろう。
「ふむ。まぁ、いいか。君の食べた事に関しては誰か人間にぼかして教えておくよ。そうすれば君も食べた甲斐があるだろう」
「そういうものなのかー」
 租借し、白い筋が口からはみ出ている。
 余り見るに耐えないその状況で、しかし霖之助は溜息のみで済ます。
「さて。僕は行くが……。風呂にでも入っていくかい? そんな簡単に落ちる汚れじゃないからね」
 振り返りながら聞けば、ルーミアは少しだけ考え、顔を縦に動かす。
 それを確認し霖之助は香霖堂へと歩き出しルーミアもまた浮きながらその後を追う。
 後に残された骸は一つ、獣たちが食い漁り白骨と化すまでそのまま風にあたり続けることとなる。
 

END





戻る