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学園物語 下階のお話

「……生徒会長と、会計ですかね」
 生徒会室の丁度真下に文芸部の部室が存在する。部室には、今現在まだ朝だというのに二人の人間が居た。
「多分そうね。あぁ、そういえば。雪村君。君の従兄弟は元気?」
 一人は二年生としての赤いスカーフをつけている女。髪は腰まであり大雑把にそれを縛っている。
「ええ。確か、去年の夏でしたっけ。僕の従兄弟と会ったのは。まぁ、あの人は基本的に元気なのか元気じゃないのかいまいちな人ですけ ども。ああ、とりあえず舞姫先輩は従兄弟のことが気になるんですか? 駄目ですよあの人には恋人が居ますから。とは言っても微妙な人 ですけどね。それにあの人色々怖いところがある人なんで彼氏彼女の関係になるのは進めません。そういえば僕はともかく先輩はそろそろ 内申書とかにも気をつけないといけないのにこんな所で暇を潰していていいんですか? 駄目ですよ僕が言うのは説得力がありませんが一 般的に見ると高校二年生というのは来年に備えて大いに勉学に励み大いに遊び大いに学園生活を満喫するものなんですから。高校時代に出 来た友人だって素晴らしいんですし。あ、そうそう先ほど話しに出た会長と会計ですがあの二人はいつ恋人関係になるのか気になりますよ ね。僕が今手元にある小説は恋愛小説ですけどこの本みたいにやけに長い間長々と友人付き合いを続けて途中にライバルが出てきて最後には劇的に結ばれるような感じになるんでしょうか。僕としてはそれをそれで気になるんですけれどやっぱりどうかとは思いますよね。付き 合うのなら付き合ってもいいんじゃないかなと思うんですよ。そこら辺は先輩どう思いますか?」
 立て板に水、という風に口を動かすのは一年生であることをネクタイの色で示す少年。背は小さいがどことなく引き締まった筋肉が捲くられているワイシャツから見えている。
「……君のそういう長い話が私は苦手だよ。それに比べて従兄弟さんは短すぎたけどね」
 辟易したような顔になり、舞姫と呼ばれた女は手元にあった本へと目を向ける。
 言葉に頷き、雪村と呼ばれた少年は更に言葉を続けた。
「これが自分の短所だとはわかっているんですけどね。でもどうにも止められないんです。あぁ、そういえばそんな台詞を何かのCMであ りましたね。あれみたいなものです。そもそも雪村家の人間は両親からして変わり者なのでそういう性格になるんじゃないかと思うんです よ。だから僕はこれでも案外にまともな方なのではないかと自信を持っていえます。それに、僕の従兄弟は同年代の者が三人いるんですが どうにもこうにも異常な奴らばっかですよ。あの従兄弟はミステリの主人公みたいな人間ですし一人は電波ですしもう一人は中学を中退し て日本全国を放浪してますし。あぁ、そういえば僕の従兄弟の話でしたね。あの従兄弟の言葉少なさは多分考えすぎなのではないかと思う んです。もしくは自分が分かることを他人もわかるだろうという過大評価かもしれませんけど。あの従兄弟は頭の回転は速い分心の機微を 察するのが苦手らしくてですね。いやぁ困った話です。そういえば舞姫先輩には妹さんが居ますが可愛いんですよね? 僕としては紹介し て欲しいなと思うんですが。勿論これは舞姫先輩の家に行くための口実なんですけどね。僕舞姫先輩を異性としても友人としても好きです し今以上のの関係になることもしたいと思うんですよ。舞姫先輩はどう思いますかね?」
 長い、長すぎる言葉を半分以上は聞き流し、そしていつものように返事をする。
「あぁ、うん。駄目」
 簡素で素っ気無い言葉。
 雪村に比べればそれは無駄なこと省いた良い言葉だろう。余りにも味気なくはあるが。
「毎回毎回悲しいですよね。僕はこんなにも舞姫先輩を愛しているというのに。いい加減中学時代から付きまとっている僕の気持ちを察し て欲しいものですね。別に良いんですけれど。舞姫先輩が振り向くまで僕は適当にそこらの女の子を引っ掛けて遊びまくってやりますから 。舞姫先輩の妹だって僕の毒牙の前には陥落するでしょうね。そんな事態に陥りたくなければ僕の彼女になってくださいよ。なってもらえ なくても本をくれればいいんですけどね」
「君が女の子をいつも連れてるのは知ってるけど、ほとんど振られるんでしょう? それに私の妹には、近づけないわよ」
 投げやりに答え、舞姫はコタツのスイッチを入れる。
 文芸部室。コタツ完備、本の数は卒業生が寄贈し、毎月のように部費で購入するのを含めてすでに1000冊を軽々超えている。
 ポットはあるが、お湯を沸かす物は本に悪いためないのでお湯自体は生徒会室や茶室から借りるというのがほとんどである。ちなみにコ タツは卒業生が自宅から持ってきてからずっと置いてある。
 床は畳で、たまに文芸部員が寝に来ることもある。
 朝から来る人間は稀だが、だからと言ってこの二人のようにいないわけでもない。
「振られるようにしてるんですけどね。まあ、妹さんに手を出すほど僕もタラシじゃありませんよ」
 あっさりと先ほどの言葉を翻して、雪村はまた本を読む。
 二人で過ごす時間に甘えるように。二人で過ごす時間という言葉を感じているように。
 それは、雪村の幻想なのだが。実際には、二人だが、心は一人と一人でしかない。決して、舞姫は雪村に靡く事はないのだから。
「どうだかね。……そう言いながら、あの子にも手を出したじゃないの」
「それは語弊がありますよ。手を出したんじゃなくて、手を出してきたんですし。それに昔のことじゃないですか。今では彼女も別の男を 作ってましたよ? それにあの程度で親友じゃなくなるのは本当の友人ではなかったということですよ。大したことじゃないと思いますけ どね。そうそう、親友といえば舞姫先輩と同じくクラスの人が昨日変な男と歩いてました。悪い虫だと思うんですけどね。いや、この時期 ですし男で進路が捻じ曲がるのもどうかと思うんですよね。舞姫先輩からそれとなく言っておいたほうが良いですよ。ちなみに僕が何故知 っているかというと昨日は久しぶりに姉と繁華街に出かけたものでして。まぁ、途中で別れ社会人の女性にご飯を奢ってもらったんですが ね。それはそれとしてその際に見たんです。確か時間は23時でしたかね。まぁ、しかし。小説のようなお話って案外ありふれていると思 いませんか? 会長と会計や舞姫先輩の親友さんも。やっぱり人間の想像力には限界があるということなのでしょうかね。想像できること は大体起こるという暗示なんでしょうか。僕にはそろそろ小説みたいな恋が起きても良いと思うんですが。あ、間違えました。恋はもうし ているので恋の結果ですよね。舞姫先輩が僕を好きになって両思いなんて素敵滅法だと思いませんか?」
「そんなに長く話さないでよ。……私は、君を好きになることはないわ。でも忠告はありがとう。あの子に言っておくわね」
 舞姫は溜息を吐くと置いてある本を鞄の中に入れる。持ち出し自由なのが、文芸部の持ち味だろう。勿論返却はしなければいけないが。 「いえいえ。大したことでは。そういえば何故文芸部は活動が許されてるのか疑問に思いませんか。本を買うなら図書室にまわしたほうが 余程建設的ですし。一応会誌などは発行してますが、活動なんて大したものじゃないじゃないですか。不思議ですよ。部費で本を買うのを 許可されてるのがわかりません。どうでもいいといえばどうでもいい疑問なんですけれどね」
「一応、文芸部作った人が言ったらしいからね。それに多少の無駄ならどうとでもなるのが学校だしね。案外、良いところじゃないもの」
 腕に巻いた時計を見て、鐘が鳴る時間だと舞姫は確認する。
 雪村は依然としてそこから動くことはせずに小説に目を通す。
「確かに、だから学校は駄目なんでしょうね」
 珍しく雪村は一言で返し自分の隣を過ぎる舞姫の腕を、掴む。
「……何よ」
「腕がとても綺麗ですよね。肌の手入れなどはきちんとしているようで何よりだと思います。でも、僕も男でして。そう、綺麗な腕を見る とやっぱり何かしたくなるんですよね。征服欲というものらしいです。とは言っても嫌がる貴女に無理やり乱暴しようとは思いませんけど ね。そういうことはやはり愛がないといけないかなと思っています。愛なら何でもいいわけでもありませんけど。兄弟愛なんかじゃ湧かな い感情ですしね。ああ、それで何かという質問に答えていませんね。すみません。つまりは、こういうことなんです」
 腕を引っ張り、二の腕へと雪村は口付け、強く吸う。
「っ」
「…………これで、良いですかね。普通に隠せるのでどうということはないと思います。別に首筋につけるわけにもいきませんからね。そ ういうことはベッドの中でやりましょう。とは言ってもそれが出来るのはいったいいつになることやらなんですけど。いつか全校生徒の前 でキスとかもしてみたい所ではあるんですがそれが出来るのかどうかはわかりませんね。残念です」
「……私、やっぱり君の事好きじゃないわ」
「そうですか。僕は好きですよ」
 腕を強引に振り払い、早足に舞姫は部室から出て行く。それを見送ってから雪村は薄く微笑む。
 彼女は、面白くて、楽しい人だと。
 いつか自分の想いを受け止めてくれればいいなと思いながら雪村は手元にある本を読み進めていく。