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 外は雨。
 風は冷たく静かに吹いている。
 そんな中、青年は書を読んでいた。
 尋ねてくる友人も少なく、まるで隠者ともいえる暮らしをしている青年に とっては数少ない楽しみの一つである。
 と、その静かな青年の楽園に騒がしい声が聞こえてくる。
「今日はいるのかねぇ」
「居留守を使ってることもあんじゃないのか」
「なに、着いてみねぇとわかねぇよ」
 塀の外から聞こえてくる声に耳を傾けると、また来たのか、という嘆息を つき、青年は横になる。
 わずらわしいことだ、と考えながら。
 しかしその表情はどこか楽しげでさえあった。
 そのことに青年は気付いてはいない。
「すみません。誰かおりませんか!」
 青年の耳に張りのある声が聞こえてくる。
 一度寝返りをうち、それを無視する。
 彼には自分の弟が対応するだろうという計算があった。
 案の定それは的中する。
「あ、はい。少々お待ちくださーい」
 少年の声が響き、小さな足音がドタドタと騒々しく鳴る。
 寝ているそこからは聞こえないが、何か話しをしているようだ、ということ はわかる。
 弟である少年が青年に誰が来たのか、何の用かを未だ聞きに来ていない。
 それがその証拠だった。
 そしてしばらく経ち、ドタドタと足音が聞こえ。
「兄上」
「わかっていますよ」
 寝ながら気だるげに返事を返す。
「私はいないとお伝えなさい」
「けれど」
「いいのです」
 静かに、けれど苛立ちを込めて青年は弟に言う。
 逡巡しながらも兄の言葉に逆らえないのかどうか、弟は頷きまた足音を鳴ら して門へと走っていった。
「まったく……」
 彼らが来たのはこれで二回目。
 それも、青年を誘うためだ。
 ありがたいことだとは思っていた。
 しかし。
「私は乱世に関る気など、ありませんとも」
 誰の指図も受けずに悠々自適に暮らす
 畑を耕し、雨の日は書物を読み漁る。
 それだけが青年の本懐であった。
「……お帰りになられました」
「そうですか。ありがとうございます」
「はい。しかし、また来ると思いますが……」
「そうですね。その時は、私は寝ているとお伝えなさい。それで帰ってまた 来るようならそこで会うことにしましょう」
 言外にそんなことはしないでしょう、ということを含ませながら青年は改め て書を読み始める。
 心のどこかで彼らの訪れと、そして世界へ羽ばたけるかも知れない予感を期待を胸に抱きながら。




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