「君の名前は?」
僕と君しか居ない電車の中で君は僕の事を君といって僕に問いかける。
「それをよくわかってて聞く君の神経が知れないね」
君は口を斜めに吊り上げる。
「人の質問に答えない君の神経もよくわからないね」
「君の質問に答えないだけで人の質問にはきちんと答えるさ。僕は正常なんでね」
君という存在を切り捨てるようにして意図的に言えば、君は横に首を振る。
「狂人は皆自らを正常だというんだがね。まぁ、いいか。君は結局の所どんなことを望んでいるのかな」
「何も望まないから、何でも望んでいるんだよ」
言葉遊びであることは解っていた。けれど、言葉遊び以上にはならない。
そもそも君が質問をすること事態が珍しいというのに。
「遊びは楽しいかい?」
「君と話すことが嫌いなのに、楽しいわけがないだろ」
そうかい、と君が頷けば言葉がなくなる。
それもそれで僕は安堵できる状況だ。
「……結局のところ……。君はここには居ないんだよね」
「僕はどこにでも居てどこにも居ないよ。ここに居ることすらも欺瞞だろうさ」
「そこには誰もいないということ、か」
結局のところそれすらも言葉遊びにしか過ぎないんだけれどもね。
どれほど言っても、どこまでいっても、遊びの段階を超えられない。
「電車ってのは、いいところだよ。いつだって、降りることができる。
動いてる電車が止まって、一つの駅で止まる。
それは現実。
「……これは夢だったのかな」
「胡蝶の夢なのかもね」
どちらがどちらなのかも曖昧になってくる感覚を味わいながら僕は立ち上がる。
「最後に聞きたいんだけれど、僕は君なのかな?」
「君が僕であるというなら僕も君だろう?」
「そうだね……結局は、何もないんだよね」
「そういうことだよ」
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