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ある朝の話



 人の動きを上から見ていると毎日思う。
 この人らはどこに行くのだろうと。
 見える場所にいる女性は普段着で仕事をしているとは思えない。
 見える場所にいる男性はスーツで仕事に行くのだなぁと思うことができる。
 だがどこに行くのかは解らない。
 もしかすると女性は秘密警察の一員なのかもしれない。もしかすると男性は悪の結社員で何か活動を行って いる最中なのかもしれない。
 考えようによっては、そんな楽しみがある。
 勿論それは妄想でありなんの意味もないことなのだが、その光景を毎日のように見ていると暇を潰すことはこ れしかないというもので。
 やっぱり、このままじゃいけないのかもしれない。
 とぼんやりと考える。
 籠の中の鳥ではないが(むしろ鳥は好きなのだが。苛めがいがあって)こんな場所でじっとしているのはどう にも自分の性合わない。
「何やってんだよ」
 窓から外を見ていると自分と同じ境遇の奴が声をかけてくる。
「別に、何をやっててもいいじゃないの。アンタには関係ないでしょ」
 欠伸をしながら伸びをして不機嫌そうに言う。実際不機嫌なのだけれども。
 こいつは私たちをここに閉じ込めているあいつに忠誠を誓ってるし。同じく、買われてきたというのに。
「ふぅん。……まっ、脱走しようなんて考えなければ別にいいけどな」
 言外に出きるわけがないというようにこいつが言うのを、実際そうなのだから悔しく思い、窓から目を逸らして 壁に当たる。
 こうでもしないとストレスが溜まって仕方がない。
 ストレスが溜まると、私だってはげちゃうし。エンケイダツモウショウという病気にかかるらしい。いくら私でも、 それは嫌だ。
「……アンタはよくこんな所に閉じ込められて平気ね。私には考えられないわよ」
「別に、お前と俺のもろもろな違いだろ。俺は平気で、お前は平気じゃないってだけだ。それに、飯を食わせて もらってるんだ。それで十分じゃねぇか」
 鼻を鳴らし、そいつが言うのを不機嫌に思う。
 だって、飯なんてどうだってなる。問題は自由が不自由かなんだから。
「……アンタは、外に出たいって思わないの? あぁ、そうか。アンタは、アイツと一緒に出られるものね。そう いえば。首輪を付けられてるけど」
「お前のように反抗的じゃないからな」
 軽く私をあしらうこいつは、本当に嫌になる。どうせなら、私と同じ思考を持つ奴がいればいいのに。
 けれど、居たとしても私はそいつとのいさかいがあるだろう。きっと、私は自分勝手だから。
「……五月蝿いわね。別にいいじゃないの。私の性よ。こうじゃないと私じゃないの。わかる?」
 しゃーっと威嚇するように言っても、こいつは大きくて。私の威嚇は威嚇になるはずがない。そこがまた、むか つく。
「……まぁ、あの人が帰ってくるまで適当にしてればいいさ。どうせ帰ってくればお前は……」
「黙っててよ!」
 思わず、叫ぶ。嫌な記憶が頭に浮かぶ。
 そうだ。どうせ、何をやってのもあいつのあの手には逆らえなくて。体中を触られ、自分でも求めてしまうのだ。
その手を。あの男の手を。
 次の日になったり、少し時間が経つと自己嫌悪に浸れてしまうことを、きっとアイツは解ってないんだが。
「……ふん、尻尾を振って媚を振るんでしょ。あんたは」
「はっ。俺は、そういう性だからな。お前は、最近流行のつんでれって奴か?」
 笑い、後ろを向いて普段の自分の場所へと行きながらそいつはわけのわからない言葉を投げかける。
 なに、つんでれって。おいしいものではなさそうだけど。
「……別に、関係ないでしょ!」
 そうして所定の位置に向かうあいつに毒を吐いて私はいつものように眼窩にそびえる町並みを睨む。
 人はやっぱり多くて。
 思わず死んじゃえとも、思う。
「……外に、出たいなぁ」
「外に出たいとは、笑わせるな」
 声に驚き、声のした方向を見ればそこには黒い奴がいた。
「……何よあんた。何の用よ」
「別に。妙な奴がいるから来ただけだ」
 睨みつける視線を気にせずに、そいつは言う。きっと私が外に出られないことを理解しているから。
 頭の良い奴は、だから嫌い。
「……妙って、どういうことよ」
「外に出たいなんて、外で暮らす我らから見ればおかしな話だ。外では、仲間内で殺し合いわずかな縄張りを 巡り争い、そして他の者に殺される。残酷な世界だ。君のような者が生きていけるとは思えずゆえにな。…… 外を知らない者の、戯れなのだろうが」
「それでも、自由を縛られるよりマシよ!」
 すでに、顔だけでなく行動でソイツに対して私の感情を示す。
 ガラスの向こうにいるソイツには何の意味もないとわかってるけれど。
「自由など、些細なものだよ」
 皮肉気な声を共にソイツは、その漆黒の翼を、広げる。
「愚かなる猫くん。確かに君は縛られることを良しとはしない。だが、縛られる幸せに気づくべきだね。もしそれに 気づくことが出来ないようなら……」
 見つめる瞳が私を、射抜く。
 捕食する側である私の毛が逆立つ。
「私ら一党が、君を食らってやろう。死肉を食らう、この嘴でね」
「何をしている! この鳥類!」
 思わず、叫び声をあげそうになったところで、唸り声と共に、アイツが、犬であるアイツが来る。
「おやおや、この家の騎士様の登場だね。ふふ。なーに。ほんの、悪戯だよ、獣よ!」
 一際大きく鳴くと、カラスは空へと悠然に飛び立つ。
 私はその大きく、黒い姿に怯えを抱き、だが、憧れも、抱く。
「……大丈夫か」
「……別に、平気」
 逆立っている自分の毛を舐め私は犬から目を逸らす。
 こんな自分を視て欲しくない。
 なのに。
「きゃぁっ、な、何するのよ!」
「別に。暇だ。俺の話し相手をしろ」
 コイツは私の首根っこを甘く噛んで自分の定位置へと戻る。私は暴れようとしたが、諦める。下手に動いても 私が痛くなるだけだし。
「…………。別に、怖くなんかないわ」
「俺が暇なだけだ」
 不機嫌さを顔に出して私は、顔を背ける。
 けれど、外に行きたいと願う心はやはり自分の中にあるままで。
「私はいつかきっと、外に出てやる」
「言ってろ、猫が」
 部屋から出る前に見る外はやはり、とても、広かった。




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