鋼鉄の乙女



 君は鉄の処女という拷問器具を知っているかい?
 おやおや、さすがに知っているか。あの拷問器具は有名だからね。
 けれど実際に拷問方法まではわかるかい?
 わからない? 何それが普通さ。あれはね、名前とは裏腹にとてもとてもエグイものだよ。
 中に人を押し込め、内部にある鉄の針で串刺しにする。けれど本当に怖いのはこの後だ。
 実際刺されても中にいる人はすぐには死なないんだ。
 串刺しにされ、宙吊りにされるんだ。その苦痛といったら、実際に味わってみなければ言葉にならないだろう ね。
 いや、逆に言葉に出来ないだろう。痛みでね。どちらにしても生き地獄だろうさ。
 おっと。嫌そうな顔をしないでくれよ。僕だって楽しく言ってるわけじゃないんだ。
 間違いなく楽しそうだって? おいおいその言い方だとまるで僕が変態みたいじゃないか。
 けど、知識を人に語るというのは楽しいから仕方がないだろ?
 ん? 結局何が言いたいのかって? 結論を急ぐなよ。僕は人と話すことが少なくてね。話すのが楽しみの一 つなんだ。
 いやいやいや。ごめんごめん。そんな顔をしないでくれ。
 調子に乗りすぎたと思う。あぁ、じゃあ最後にこんな豆知識を言ってから本題を話そう。
 何故鋼鉄の処女って名前なのか分かるかい? これがまた面白くてね。
 刺した後に下から血が出るからなんだ。
 ……そうしらけた顔をするなよ。僕としてはブラックジョークとして一流だと思うんだがね。
 それじゃ本題に入ろう。
 宙ぶらりんな苦痛って、酷いもんだと思うわけだ僕は。そして何故こんな事を君に言うのかというとだ。
 君は、もう死にかかっているからさ。
 いやそんな変な人を見るめで僕を見るなよ。僕だってこんなバカげたこと言いたくないさ。
 けど考えても見て欲しいんだが、ここがどこだか分かるかい?
 おっとようやく気づいてくれたね。
 ここは死と生の境界線上、さ。と格好つけてみたけどどうだろうか。
 格好よくない? ネーミングセンスがないのが僕だから仕方がないね。
 で、だ。君は今死に至る病にかかっている。どこかで聞いた言葉? 知らないね。
 あぁ、老衰じゃない。老化は病よりも上のランクだろう? 死に至るよりはマシだろうがね。
 君は不運にも車に轢かれた。バシーンとね。そして病院へ直行。
 結果君はここにいる。
 生きるか死ぬかの境目って奴だ。生きたいと思うかい?
 おや悩むのかい。生きていることほどよいことはないと思うんだけどね。
 まぁ今の世の中じゃ仕方がないかい。僕としてはどっちでもいいんだがね。
 このままでいてもいいし、死んでもいい。勿論生き返ってもいい。
 どうするかは君に任せるよ。
 何? 鋼鉄の処女を例に出したんだから執行人っぽいあんたが決めてくれって?
 おいおい、僕に人の命をどうこうできる価値があると思っているんだったら思い違いだよ。
 僕は執行人じゃなくて見物人。
 処女の股から血が流れる光景を見て楽しむ人間さ。
 ん? やっぱり変態だって? 失礼な人だ。
 で、君はどうするんだい? 僕は君が悩むのをここでたっぷりと見ているけど。
 さて。どれくらい僕を楽しませてくれるんだい?






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