超えられない関係



 いつものように友人の家に行くと友人をPCを打鍵して何かを作っているようだった。
 別に大したものじゃないだろうと高をくくる。
 天才と呼ばれる友人だが彼が作るものはどうにも不要なものが多い。
 例を挙げるならば全自動体操機械やら機械音声爆音風変換機などなど。
 一方では確かに凄いものを作っているのは認める。
 極小ネジを量産するための装置や常にプロテクトが変化するファイアーウォールなど。
 機械やプログラム関係のことで友人の右に出るものはあまりいない。
 後ろに居る人間は数多く、また俺もその一人なのだが。
「おい。今度は一体何作ってるんだ?」
 カタカタと物凄いスピードでキーボードを打鍵する姿に呆れつつ聞く。
「ほぁ! 何だと何を作っているかだと。そんなものは至極明瞭に一言で答えを言っていいのかそれとも長い 時間をかけて基礎理論から君に説明すればいいのか迷い悩み迷い家に迷いこんで人生の成功を手にしよう!」
「とりあえず最後に至るまでがわからんから一言で言え」
「人口知能製作に成功しかかっているのだよ!」
 へぇ、と軽く驚く。
 話ながらも直打鍵の音は響いていることに。
 製作物は、正直な話どうでも良い。人口知能なんてそんなものが簡単に完成するとは思ってはいないという のがあるけれど。それよりもコイツなら、実際に作ってもあまり違和感や不自然さといったものがないということ を知っている。
 欠伸をしながら友人の様子を伺いつつ無機質な研究室に座り込む。
 弱視で、しかも今日は眼鏡を持ってきていないからわからなかったが、よく見ると友人の髪はぼさぼさで伸びっ ぱなし。
 床にはカップラーメンの食い残したものがこれでもかと言うばかりに落ちていて酷く汚い。
「……お前、ちゃんと飯食ってるのか?」
「もーちろんだともぉ! 一日一カップは食べているさ。しかも野菜をわざわざ生のまま入れてだよ。これで健 康の保障がされているとみなした。いや自分で定義した。これ以上食べると栄養を取りすぎて私は絶望でき
る体験を味わうことになるだろう」
 とりあえず食べてないんだろうと意訳し大きくため息をついた。
 こいつはよくもやる。
 かなり長い付き合いになるが友人は生活というものを完全に放棄しているとしか言いようがない。
 きっと自分の身体を省みるという人間にとって一番大事な機能をどこかに、例えば前世とかに置き忘れてき たんじゃないかと常々疑問に思っている。
 つらつらと何もせずに友人を見学していると、打鍵の音が止まり。
「パーフェクトだ! 完全だ! 完璧だ! そして不完全だ! だが不良ではない。これだ。これこそが求めて いた人類の英知。完全なる不完全。未来を打開し切り開くことも不可能ではなく可能ということも視野にいれ てオールオーケーと叫ばしていただく!」
 と最後に大きく叫び、ぶっ倒れる。
 ガシャンと言う音とゴツンと言う音が同時に出たけれどそう心配するようなものでもない。友人にとってこうい うことは日常茶飯事なのだから。
 徹夜でもしていたんだろうかと欠伸をしながら近づく。
 予想通りと言っていいものやらどうか。
 友人は大口開けた挙句に鼾までかき始めていた。
 PCの方を確認するとやはり保存してなかったようなので保存しておく。
 他は下手なことをして妙なことになった場合が怖いので弄らずに放置。
「さてと、と」
 どうしようかなーと少し悩み、友人を抱き上げる。
 案外と軽い。
 いや、身長を考えるとこんなものだろう。
 胸を触らないように気をつかいながらソファへと移し、かけるものが見つからなかったので羽織っていたもの を申し訳程度にかけておく。
 寝顔は本当に、理不尽な程に可愛いけれど。
 普段の意地悪そうな顔に見慣れている身としては違和感を感じざるおえないのはどうだろうか。
「ま。俺とこいつは友達だしなぁ」
 友人を可愛いと思うことはよくあることだろうかと悩むけれど、まあ相手が女ならよくあることだろう。
 そもそも女を可愛いとか美人だと思わなくなった時点で男としての自分に疑問を持ってしまうのは確実だろ うからこれで正常。
 さて。
 外は寒いけれど仕方がない。早いとこ家に帰って寝てしまおう。
 いつものように友人の様子を見に来ただけなんだからこれで大丈夫だ。
 もう一度だけ欠伸をして俺は研究室から出て行く。
「……据え膳も食わないとは。武士ではないな」
 出て行く直前に何か声が聞こえた気がしたけれど、多分寝言だろう。
 もう一度大きく欠伸をして、外に出る。
 着ていたものは後で返してもらうからいいかと思うけど。
 実際返してくれるか疑問に思えてくる。
 汚されてたらどうしようかとかも考える。
 どっちにしても、高いものじゃないしその時はその時だろう。
 家を出てしっかりと戸締りを行い。
 空を見ると、朝焼けの中にまだ星が見えていた。
 一瞬だけ友人を想像して、欠伸をした。
 家に帰ったらさっさと寝よう。





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